2016年11月のアメリカ大統領選挙ではトランプ氏が勝利を収めて第45代大統領に就任することになりました。トランプ氏は公の場での数々の暴言とともに移民排斥やTPP破棄の公約を掲げていました。TPPはアメリカ主導でブロック経済を構築するという話で、日本は農協などの猛烈な反対を押し切って国内で強行採決したのに、張本人のアメリカが抜けてしまうという笑えない状態になっています。移民排斥もTPP破棄もアメリカのエゴというか内向きな方向であり、これは人権尊重や国際協調という理念が消し飛んでしまったようです。
奇しくも2016年6月にはイギリスが国民投票によってEU離脱を決定しました。イギリスもEUへの拠出金負担や移民受入に嫌悪感があって、欧州協調の輪を抜け出て独自路線を歩む選択をしました。
このようにアメリカとイギリスという大国が国際協調よりも国内事情を優先して従来の枠組みを離脱するのは、今の国際情勢のトレンドが内弁慶にシフトしてきたことを象徴していると思います。
特にアメリカは移民により成立した歴史を誇る国であり、人種的多様性がアメリカの活力を生み出して世界中から憧れる存在になりました。それが移民受入に消極的になり、白人中間層に優位な政策を行うようになればかつての魅力を喪失します。
そうした理念や魅力を手放しても、現在のアメリカ国民の経済的利益を最優先するという実利的欲求が高まったのが今回の選挙の特徴なのでしょう。
アメリカやイギリスが内弁慶になるに連れて、クリミア併合を強行したロシアや国際法を無視して南沙諸島の占有を続ける中国など、強国の軍事力を背景にした領土拡張に国際社会が対抗する術を失うリスクが心配されます。
しかもトランプ大統領は、日本に対し駐留米軍の負担増額、応じない場合は在日米軍の撤退も示唆するなど、従来の日米安保体制を否定するかのような発言もしてきました。
日本の立場では、尖閣諸島の問題で中国との緊張が高まっており、北朝鮮がミサイル実験や核実験を繰り返すなど近隣で不安定要素が増しています。そのような状況の中でアメリカが日米安保体制を軽視するのが明確となれば、後ろ盾を失う日本は孤立してしまいます。
そのようなリスクが高まれば、日本は自衛隊の増強を進めつつ、中国やロシアとの関係改善を図るという新たな外交努力が求められます。
トランプ大統領の個人的思惑とアメリカの国家戦略が一致するのか否かは現段階では不鮮明ですが、アメリカやイギリスの内弁慶政策がどの程度のものになるかの見極めが必要です。
もし、トランプ大統領が公約で掲げていたように極端な保護貿易を行い、在日米軍の縮小や撤退を行う予兆が見られるなら、日本としては中国やロシアとの関係改善の道を探るという外交的転換も検討することになるでしょう。
2016年12月にはロシアのプーチン大統領が訪日し安倍首相と会談をする予定になっています。トランプ大統領の誕生という劇薬が日露首脳会談にどのような影響を与えるのか興味深いところです。
2016年は日本にとっても戦後の外交方針の再検討をする年なのかもしれません。
後世から、「2016年は世界が理念を失ったことで暗黒時代に突入した年だった」と評価されることがないよう、各国のリーダーには先見的な舵取りを期待したいものです。